商品開発ストーリー「近沢レース店のアイテムができるまで」
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- 2022.12.10.
こんにちは、近沢レース店営業の責任者、近澤 柳です。本日は当店の商品開発秘話をみなさまにこっそり、お教えしようと思います。ものづくりのこだわり、どのような工程で企画から商品化まで進行しているかなどを、お伝えできればと思います。
まず初めに、当店は近沢レース店という屋号がございますが、レースメーカーでは無いということ。つまり、レースの生産工場や、縫製工場は持っておりません。仮にレースの生産工場を持っていると、工場を維持するために同一のレースしか生産できないのです。
当店のお品物は本当に多種多様なレース、そしてレース製品がございます。レースや生地は世界各国の得意なものを厳選し、組み合わせ、お品物として最適な命を吹き込み、最終的な製品としております。本日はそのこだわりの一部でもお伝えできれば幸いです。
当店のものづくりのこだわり
世界を跨いでその製品にふさわしい産地を厳選する
上述いたしましたように、当店は世界各国のレースや生地の産地を飛び回り、最上のお品物をおつくりすべく、探し回っております。
例えば日傘が分かりやすいと思うのですが、生地はリトアニアのリネン、レースはベトナムでオリジナルデザインで作成し、傘の組み立ては京都、といったように、日傘1本お作りするのに、3カ国貿易を行う訳です。
リトアニアのリネンが良い理由は、以前、「麻はどんな素材?リネンとの違いは?近沢レース店の麻商品の魅力をお届け。」という記事でご紹介しておりますので、宜しければご覧ください。
レースは、日本、ドイツ、イタリア、ベルギー、フランス、トルコ、中国、ベトナムなど、さまざまな産地から厳選して仕入れたり、オリジナルレースを作成したりしております。この理由は、国によって得意分野が大きく違うからです。
日傘の話に戻りますと、現在はオリジナルレースを作成する際は、ほとんどがベトナムで生産しております。ベトナムはフランス刺繍の流れを組むことから、とても繊細な仕事が得意で、勤勉な国民性がございます。そして今ではほとんどの傘が海外生産のところ、我々は京都で日傘を組み立てております。
純パラソルという、いわゆる晴雨兼用傘ではなく、純粋な日傘のことをそう呼ぶのですが、この純パラソルを作れるところが、日本国内では激減しており、その一角を担うのが京都なのです。昔ながらの職人技で1本1本丁寧に組み立てております。
このように、産地を跨ぐことは一見、無駄のように思うかも知れませんが、その産地にしかできない特徴をしっかりと把握しているからこそ、できることなのです。
実際にご使用いただくシーンを想像する
レースというと、ほとんどの方が「洗えないんでしょ?」、「うち、犬がいるから」、「子どもが汚すのよね」、「洗濯大変そうよね」など、メンテナンスが難しそうであると、お思いのようです。これは私が実際にお店に立っていて、お客様に頂戴したお言葉なのですけどね。(笑)
しかしながら、当店のレース製品のほとんどは、ご自宅でお洗濯していただけますし、代表的な製品のタオルハンカチに使用されているレースはポリエステルの糸を使っております。これによって、毎日のお洗濯は、洗濯機で可能ですし、乾燥機にもかけられます。
このお話は当店がいかに使用シーンを想像しているか、お分かりいただけるエピソードなのですが、上記の写真のお品物を開発した際の開発コンセプトとしては「最上級のレースショールを作る」でしたので、刺繍する糸をシルクにするというアイディアがありました。
しかし、シルクを使うことによって、洗濯ができない、それではお使いいただくのに不便である。という理由から、シルクにとても風合いが似た、ポリエステル糸を採用いたしました。これによって、こんなに繊細に見えて美しいオールレースのショールもお洗濯が可能になるのです。
どんなに素敵に見えるお品物でも、実際にお使いいただけないものは製品とは呼べません。ですから私たちは、お客様がどのようにお使いになるのかを想像してものづくりを行っております。
レースを主役に美しく楽しく
なんといっても近沢レース店ですから、どのようなお品物も、レースが主役でなければいけません。ですから、ハンカチを作る時も、バックを作る時も、お洋服を作る時も、そして靴下を作る時も、どんな時でもどのようにしたら、レースが一番美しく見えるかを考え、製品開発を行っております。
ただ、レースを付けるだけではなく、お洋服ならば着用した方が動いた時にどのように見えるか?また、靴下がとっても面白いのですが、歩いた時の揺れも考えて企画をしております。
5、6年前まではレースといえば美しい、そしてその美しさが際立ったレース製品をお客様がお求めになっていたと思います。
分かりやすく、ハンカチで例えると、そのレースモチーフはお花柄が圧倒的に人気でした。しかし、現在は将棋のレースや、アボカドのレース、来年発売する、ことわざシリーズの「豚に真珠」などに代表されますが、楽しいレースも人気が出てまいりました。レースの表現は無限ですよね。
120年以上お商売させていただいており、レースの歴史にも精通はしております、しかし既存の概念に囚われることなく、そのレース製品が美しいだけではなく、お客様にお楽しみいただけるよう、商品開発を行っているのです。
商品企画の進め方
それではここからは、実際にどのように商品企画を進めているかをご紹介して行きたいと思います。
当店では大まかにカテゴリー毎に(ハンカチ、バック、アパレル、インテリアなど)何をどのくらい生産するかを決め、細かく実際のアイテムに落とし込んでいきます。
その際に大別すると、レースデザインから決定する場合と、アイテムから決定していく場合とレースのデザインを一から起こす場合の3種類ございます。
レースからインスピレーションを受けての商品開発
上述のように世界各国のレースの産地を熟知している私たちは、毎年世界中の膨大な量のレースデザインを新たにチェックします。
そのレースデザインからインスピレーションを受け、レースありきで企画がスタートするのです。その場合は、製品のカテゴリーや、アイテムも決定していない状態で、如何にこの素敵なレースを使って、その良さを最大限引き出せるか、を考え、アイテムに落とし込んでいくのです。
例えば、今期人気のお洋服には日本のレースを使用しています。今ではハンドメイドレースがほとんど絶滅している中、機械と手仕事が融合されたレース(刺繍部分は機械で行い、生地をカットする部分は手仕事のカット・ワークという手法のレース)なのですが、当店デザイナーがこのレースに一目惚れし、なんとか商品化したいと思い、生み出されたのが「麻スプリンクルレースシリーズ」というお品物です。
このお洋服は一目見た時にその豪華さに引き込まれ、よく見ると繊細で美しくハンドメイドの温もりを感じさせる、そんなレースなのです。
因みにカット・ワークという手法のレースは当店でも中国でハンドメイドでお作りしていたレース製品なのですが、40年くらい前から10年くらい前までは、本当に本当に多くのお客様にご愛顧いただいていたレースなのです。
しかし15年くらい前から中国の経済成長に伴い、職人さんの数が激減し、品質を担保できなくなりました。そのため当店でも商品化できなくなってしまったのですが、その技法を一部取り込んだレースは私も引きこまれましたね。
アイテムから発生した商品開発
現在のトレンド分析やお客様のお声、店舗スタッフの声などから今、どんなアイテムが必要とされているか?を検討します。
例えば以前大ヒットしたマスクですが、この時はマスクが世の中で不足していました。マスクが手に入らない方の救済になれば、と今までお作りしたことが無い製品開発に乗り切ったのです。初めは当店のマスクをご購入していただける方がいらっしゃるのだろうか?そもそも近沢レース店としてマスクを生産することが正しい選択なのだろうか?と社内で何度も検討を重ねました。
結果、オンラインショップで発売し、数分で完売となる大ヒット商品になり、むしろこの製品も最終縫製の段階で職人さんの手が入るため中々大量生産ができず商品供給が間に合わなかったというくらいでした。
その他では着れるショール。こちらは今のトレンド的にお家時間が増えたり、ショールやストールでは動く時に体から落ちてしまうので、袖を通せるショールが世に出始めた時、当社でも採用してみようと、企画しました。
生地や形が先に決定し、そこから如何にレースが綺麗に見えるか?着用した時に最大限レースが美しく見え、素材とのマッチングができるかどうかを検討した商品でした。
このお品物は本当に暖かく、身につけたまま家事やお仕事が可能なところが魅力ですよね。
このように、勿論当店はレース屋ですので、レースが一番大事なのですが、アイテムから派生する商品企画もあるのです。
一からレースデザインを起こして製品化する
なんといっても当店の代名詞のレース、このレースを一からデザインし、製品化するのが醍醐味ですよね。
代表的な製品はみなさま大好きなタオルハンカチです!タオルハンカチの企画の進め方は、以前公開した「大人気「シーズンタオルハンカチ」の魅力と裏側を徹底解剖!」にて詳しくご説明していますので、そちらも合わせてお読みください。
一からデザインするのは本当に産みの苦しみがあるのですが、製品化して、お客様にお喜びいただいているシーンを見ると、本当に報われます。アイディアだけでなく、レースの機械に対しても精通してなければなりません。
メーカーが今持っているマシーンであれば何ができるか?今まで通りでは新しい製品は作れません。
タオルハンカチのレースに色を付けた時も、更にそれを進化させてバイカラーにし、現在では4色まで表現できるようになりました。勿論これはメーカーの努力なのですが、それを製品化するための知識とアイディアがなければ宝の持ち腐れになってしまうのです。
ですから、当店のデザイナーはデザインをするだけではなく、進化するメーカーの生産技術や工程を日々確認し、勉強しながら、商品企画を行っているのです。
以前私が商品企画の責任者をしていた時も、今では定番化され、オケージョンの時も普段使いもできるオールレースショールを開発しました。この時は「一枚もののレースのショールを作りたい」という想いから発生した企画なのですが、同じマシーンを持っているレースメーカー5社に作れるか聞きました。
確か当時はドイツ、ベトナム、中国、日本、トルコのメーカーに聞いたかと記憶しております。同じ機械を持っているはずなのに、できる、と回答が来たのは日本のメーカー1社だけでした。何度も何度も打ち合わせをし、デザインをやり直し、苦難の道のりでしたが、手前味噌ですが、本当に素晴らしくあまり世に出ていない製品が完成したのです。
一枚もののレースのショール(ここではギュピールレースマシーンを使っての)は、実は世の中にあまり存在しないのです。理由は簡単には作れないからです。
まず同じ面積のレースを作ろうとした場合、通常の工程で作成しているレースの10倍は時間がかかるのです。メーカーは効率が非常に重要ですから、同じ金額を稼げるのであれば手間はかけない方が良い、これは商売の鉄則ですよね。
ただし、新製品開発は手間を惜しんではできません。その想いが当社とメーカーと共有でき、同じ方向を向けたことが、この製品の誕生に繋がった最大の理由ですね。
最後にもう一つだけご紹介しましょう!アイテムからと、一からデザインを起こしての両方から発生したお品物、それは「レーストート」です。
当時当社ではエコバックが非常に人気で、毎年さまざまなエコバックをお作りしていたのでしていたのですが、「レース屋さんなのだから、オールレースのエコバック作りたい」そんな想いからできあがったのが、現在のレーストートです。
今のようにレジ袋有料化でない時代から、エコバックはお買い物のお供に1人1枚は、というところまでは行って無いにしても、アイテムとしては人気のお品物。でもエコバックやサブバックとして使うならば、強度は必要、オールレースで強度が担保できるのか?そんな課題がありつつ、企画がスタートしたのですが、まずどの技法のレースを使うか?という大きな問題にぶつかります。
エコバックですから、お値段もお買い求めしやすくなければなりません。何社もメーカーに話し、当時は中国のメーカーができるという話しをしてくれました。デザインも強度を考えながら、それでいて、レース感のあるデザインと、かなり難題でしたね。(笑)
そんな苦労を経てできあがったのが現在のレーストートなのです。因みにこのレーストートは対荷重は10キロを超えます。オールレースなのに丈夫で洗濯機でも洗えます!初期の頃からすると、もうデザインは5代目になるんです。もう12年も販売しているのですよ。ロングヒットですよね。
まとめ
さて、いかがでしたでしょうか?近沢レース店の商品開発秘話。世界中からさまざまなレースや生地、そして縫製産地を厳選し、チョイスし、お客様の使用するシーンを想像しながらものづくりを行う。それが当店のモットーであり、得意なことです。この精神は今後も変わらず、そして今に甘んずることなく、これからも美しく、楽しい商品開発を行って行きたいと思います。
みなさまの生活にレースを取り入れていただくことで、華やかな変化となりますように。