「元町を紡ぐ人びと」第4回:「ダニエル」咲寿 義輝さんが守り続ける、暮らしに寄り添う家具づくり

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「横浜クラシック家具&インテリア ダニエル」代表取締役社長 咲寿 義輝さま/「近沢レース店」営業本部長 近澤柳

横浜・元町という街は、現在、ショッピングストリートとしてのイメージが強いですが、ものづくりの歴史とともに歩んできた場所でもあります。その象徴のひとつが、開港期から続く「横浜家具」の文化です。

今回お話を伺ったのは、「ダニエル」の代表取締役社長・咲寿 義輝さん。元町インタビューシリーズの中でも、今回は街の話以上に、ものづくりの現場、その思想や葛藤、未来への視点に深く踏み込む対談となりました。

家具をつくること。直すこと。残すこと。そのすべてに込められた想いを、当店との対話を通してひも解いてまいります。

第1章:ダニエルのはじまりと、家具づくりの原点

——まずは、ダニエルさんの創業から現在までの歩みについて教えてください。

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咲寿さま:ダニエルは、家具づくりを生業としてきた流れの中で、少しずつ形を整えてきた店です。
最初からいまのようなスタイルを目指していたわけではなく、時代やお客様の声に向き合いながら、続けてきた結果がいまにつながっている、という感覚が強いですね。

もともとは家具の製作を中心にしていましたが、元町という街でお店を構える中で、「暮らしの中でどう使われるか」をより意識するようになりました。家具は置いた瞬間よりも、そのあと何年、何十年と使われていくものですから。

近澤:長く続いているお店ほど、「最初から完成形だったわけではない」というお話をよく伺います。

咲寿さま:本当にそうだと思います。時代によって求められるものも変わりますし、暮らし方も変わっていく。その中で、変えていい部分と、変えないほうがいい部分を見極めながら続けてきました。

ブランドとして何かを強く打ち出すというより、この家具なら、日々の生活の中で無理なく使ってもらえるか。その一点を大切にしてきたように思います。

——店頭にある赤い椅子も印象的です。

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元町キッズたちはみんな大きな赤い椅子に座って写真を撮ったことがあるかもしれません

咲寿さま:あの赤い椅子は、最初からシンボルとして置いたものではないんです。もともとは、父が家具の世界に入った頃に手にした椅子で、最初は赤でもありませんでした。

家具を学ぶために現場を回っていた時期、給料の代わりに譲り受けた一脚を店頭に置いたのが始まりです。その後、「目立ったほうがいいだろう」と父が赤く塗り替え、気づけば50年近く、ずっと店先に置かれるようになりました。

近澤:元町に来たら、子どもをあの椅子に座らせて写真を撮る、という方は本当に多いですよね。

咲寿さま:そうなんです。0歳の頃から毎年あの椅子で写真を撮って、20歳の成人式の日に、着物姿でまた来てくださったお客様もいらっしゃいました。
修理で一時的に椅子を下げたことがあるのですが、そのときは「赤い椅子がなくなった」と子どもたちからお手紙をもらったり、「戻ってきますか?」とご心配いただいたりして。
街の中で、そんなふうに誰かの思い出の一部になっていたんだと、改めて気づかされました。

近澤:近くの交番がなくなるより事件かもしれません(笑)。

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大きな椅子が修理の際に登場するミニチェアは、店内で見られることも

第2章:つくる、直す、受け継ぐ。ダニエルのものづくり思想

——ダニエルさんのものづくりは、「長く使う」ことを前提にしている印象があります。

咲寿さま:そうですね。最初から「何十年も使ってもらう」ことを前提にしています。
家具って、どうしても買ったときがいちばんきれいで、そこから劣化していくものだと思われがちですが、私たちは逆だと思っていて。
使い込まれて、直されて、ようやく完成していくものだと考えています。

——その考え方が、「家具の病院」という取り組みにもつながっているのでしょうか。

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咲寿さま:そうです。修理そのものは、特別新しいことではありません。昔からやってきたことです。ただ、「修理に出す」という言葉には、少しハードルがある。壊したら怒られそうとか、いくらかかるかわからないとか。

そこで、「家具の病院」という言葉にしました。調子が悪くなったら診てもらう、という感覚で持ってきてもらえたらいいな、と。

近澤:確かに、修理と聞くより、ずっと柔らかいですね。

咲寿さま:実際、一度見てもらおうかなと気軽な気持ちで相談してくださる方は多いです。結果として直さなくてもいい場合もありますし、使い方の相談だけで終わることもある。でも、それでいいと思っています。

——ダニエルさんの家具は、使ったときの安定感や安心感が印象的です。構造面でも、かなり細かな工夫をされているのでしょうか。

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横浜家具をはじめとした素敵な家具が並びます|ダニエル 元町本店(2F)

咲寿さま:そうですね。構造はかなり大事にしています。見た目がきれいでも、グラついたり、長く使えなかったりしたら意味がない。家具は身体を預けるものなので、まずは安心して使えることが前提です。

だから、木の選び方も、組み方も、全部理由があります。たとえば同じ木でも、部位によって硬さや反り方が違う。それを理解した上で、どこにどの材を使うかを考えないと、後から歪みが出てしまうんです。

近澤:それは、経験がないと判断できない部分ですね。

咲寿さま:そうですね。図面や理屈だけではなくて、これは動きやすいなとか、ここは粘るなとか、最終的には職人の感覚がものを言います。

——その感覚は、どのように受け継がれていくのでしょうか。

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咲寿さま:正直、言葉だけでは難しいです。実際に触って、失敗して、直して、という積み重ねしかない。だから現場では、まずやってみることを大事にしています。

近澤:当店のレース作りでも似たところがあります。レースも、図案や仕様は共有できますが、最後の仕上がりは職人の手加減次第で変わる。「このくらい」という感覚は、横で見て覚えるしかないですよね。

咲寿さま:まさにそうですね。家具も、同じ設計でも、つくる人によって微妙に表情が変わります。それをバラつきと見るか、個性と見るか。私たちは後者でいたいと思っています。

人を育てることも同じような考えで向き合っています。技術だけを教えるのではなく、どういう姿勢で家具と向き合うか。そこが伝わらないと、ダニエルの家具にはなりません。

——人が育たないと、ものづくりも続かないのですね。

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咲寿さま:はい。家具は長く使われますが、つくる側も長く続かなければ意味がない。だから、時間はかかりますが、急がず、焦らず、ちゃんと積み重ねていく。それが、結果的に一番の近道だと思っています。

第3章:異なる分野だからこそ生まれるつながり

——改めて、近沢レース店とのつながりについて教えてください。

咲寿さま:交流自体は、商店街なので昔からいろいろありましたよ。ディスプレイで使わせていただいたり、お客様のご進物で近沢レース店さんのレースをご用意いただいたり。そういう関係は長く続いていたと思います。

でも、私自身が「これはすごいな」と強く印象に残っているのが、駿河台にあった山の上ホテルでの出来事です。

咲寿さま:山の上ホテルは、先代の時代から40年以上前に、うちが改修工事に入らせていただいたご縁がありました。それから時を経て、7年ほど前に大規模な改修があり、その際に私が呼ばれて、再びすべて任せていただきました。

そのときに気づいたのが、ホテル内で使われていたレースが、すべて近沢レース店さんのものだったことでした。「こんなところで?」と、正直驚きましたね。

山の上ホテル
薔薇模様のレースの内側は「HILLTOP HOTEL」の文字が縁取りされています。


近澤:最初から一緒に企画して始めたコラボレーションではない、というのがまた面白いですよね。

咲寿さま:そうなんです。支配人の方からも、「家具はダニエル、レースは近沢レース店」と言っていただいて。
知らないところで、元町の店同士が、同じ空間の中で長く使われ続けていた。その事実に、すごく感動したのを覚えています。

過去には、当店のトレーに近沢レース店さんのレースをあしらったコラボレーション製品を販売したこともありましたね。

——お互いの店舗や取り組みに対して、どのような印象をお持ちですか。

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咲寿さま:やっぱり、いまの近沢レース店さんの勢いは、元町で一緒に仕事をしていて本当に刺激になりますね。
取り組みもとても斬新ですし、そのスピード感がすごく早い。気づいたら、あっという間に先へ行かれているな、という感覚があります。

近澤:ありがとうございます。そう言っていただけて、とても励みになります。
私のほうは、もっと若い頃から咲寿さんの存在を存じ上げていました。実は共通の知人から、「こんなことをやっているよ」とお話を聞くこともあって、私の中では、いちばん先進的なことをされている方という印象が強かったんです。

家具の病院や学校といった取り組みをいち早く始められていて、「自分たちも何かできないだろうか」と考えさせられることが何度もありました。

咲寿さま:ありがとうございます。でも、その感覚はきっと同じだと思うんです。
私にとって、ここで仕事をしている意味は「ただ売るだけ」ではないというところにあります。ものづくりをしながら販売もする。そういう商売の形は、まさに元町らしい在り方だと思っています。

——「これからの元町」について、期待していることを教えてください。

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咲寿さま:元町って、昔から「横のつながり」が強い街だと思うんです。同業でも、「それどこで作ってるの?」「どうやって直してるの?」みたいな会話が自然にある。
そういう文化があるからこそ、ここまで長く続いてきたんじゃないかなと感じています。

これからは、個店がそれぞれの強みをもっと外に出していく時代だと思いますし、商品だけじゃなくて、技術や考え方、背景まで含めて伝えていくことが大事になってくる。
元町には、そういう発信ができる土壌がちゃんとあると思うので、街全体でもっとコラボレーションが生まれていったら面白いですよね。

——最後に、元町を訪れる方へメッセージをお願いします。

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咲寿さま:元町には、自分たちの手でつくったものに誇りを持ち、いまもなおこだわり続けている店がたくさんあります。そうした、ものづくりの背景に触れに、ぜひ気軽に遊びに来ていただきたいですね。

この街の魅力は、商品そのものだけでなく、店主やスタッフとの距離の近さにもあると思っています。
何か相談すると、みなさん本当に親身になって話を聞いてくれる。それこそが、専門店が集まる元町ならではの強みであり、長く愛されてきた理由なのではないでしょうか。

ぜひ、構えずに街を歩いて、気になるお店があれば扉を開いてみてください。きっと、自分にとって大切にしたくなる出会いがあると思います。

——次回の連載に向け、咲寿社長の元町おすすめスポットを教えてください。

咲寿さま:ぜひご紹介したいのが、「フクゾー洋品店」さんです。フクゾーさんは、いわゆる「ハマトラ」を代表するブランドですが、単なるファッションブランドではなく、しっかりとものづくりをされている点が印象的です。

過去に、製品のコラボレーションをさせていただいたこともあります。フクゾーさんのタータンチェック生地を用いた椅子を製作しました。細部にまでこだわりまして、左の肘掛け部分にタツノオトシゴのモチーフをあしらうなど、横浜らしさや遊び心が随所に表れた素敵な製品になりました。

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「フクゾー洋品店」× 横浜クラシック家具「ダニエル」|写真提供:咲寿さま

元町らしいものづくりの姿勢を持ちながら、時代を越えて愛され続けている存在だと思います。ぜひ、その考え方や背景も、この連載で掘り下げていただけたら嬉しいですね。

最後に

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家具は、インテリアとして置かれるだけでなく、使われ、時間を重ね、暮らしの一部になっていく存在。
今回の対談を通して見えてきたのは、ダニエルは、つくるの先にある、使われ続けることを前提にしたものづくりを大切にしているということでした。

分野は違えど、日常に寄り添い、長く使われることを大切にしてきた近沢レース店との対話からは、専門店としての誠実さと、暮らしに向き合う姿勢が浮かび上がりました。

ものづくりの現場に立ち続けるからこそ見えてくる、時間とともに育つ価値。ダニエルの家具には、そんな想いが息づいています。

ダニエル 元町本店

  • 住所:〒231-0861 横浜市中区元町3-126
  • 営業時間:10:30~18:30
  • 定休日:月曜日 ※祝際日除く