一生物の日傘づくりへのこだわり。京都で洋傘製造卸を営む「小野内商店」さまへインタビュー

一生物の日傘づくりへのこだわり。京都で洋傘製造卸を営む「小野内商店」さまへインタビュー
(左)小野内 崇士さま、(右)小野内 香織さま

近沢レース店の日傘は当店を代表する逸品として、長年多くのお客さまに親しまれてきました。
レースが美しく映える見せ方やデザイン、日傘としての使い勝手の良さなど、長く愛用していただけるような工夫やこだわりを細部に施しております。

当店の日傘を特別な1本へと作り上げてくださっているのは、京都にある小野内商店さま。 長年のお付き合いがあり、小野内商店さまにしかできない技術でもって、近沢レース店の日傘は完成します。

今回は小野内商店さまの小野内 香織さま、崇士さまへインタビューを実施。日傘制作への想いや魅力、当店の日傘制作に関するこだわりなどをお話しいただきました。

——まずはおふたりの自己紹介をお願いします。

香織さん:姉の香織です。芸術大学で学芸員免許や教員免許を取得し、高校・大学講師や作家を経験後、仕事が落ち着いたタイミングで弟と一緒に小野内商店を継ぎました。

崇士さん:弟の崇士です。私は大手自動車メーカーの営業職として充実した日々を過ごしていましたが、両親に育ててもらった感謝の気持ちから「親の代で家業を終わらせたくない」という気持ちも持ち続けていました。

そんな中、ちょうど自分が30歳の節目を迎えたタイミングで、父親の仕事を継いで四代目として頑張ろうと決意しました。最初はミシンも全くできなかったのですが、姉弟でいろいろと試行錯誤しながら、小野内商店を継いで15年が経ちます。

——香織さんはお店を継ごうと思ったきっかけはありましたか?

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香織さん:私は小野内商店の技術を継承したい、という想いが一番大きいと思います。昔、父に「この生地で傘を作ってほしい」とお願いしたとき、目の前で魔法のようにパパッと素敵な傘を作ってくれたのが衝撃的でした。

「この技術をもっと多くの人に広めて、お客さんの喜ぶ顔が見たい」「オーダーという形式でも違う展開もできるのでは?」という夢がどんどん膨らみ、私のやってみたいことを小野内商店でやってみたらお客さまはどんな反応をしてくれるのだろうと思うようになりました。
自分自身の仕事も落ち着き、なんとなくこれからのことを考えていたタイミングで、弟もお店を継ぎたいという話があって。そこからは現実的に姉弟でお店を継ぐという話になっていきましたね。

——小野内商店さまについてもご紹介お願いします。

香織さん:小野内商店は、曾祖父が1903年に京都の中京区で洋傘・ショールの製造卸業者として開業してから四代に渡って続いています。かつて京都は日傘の製造拠点のひとつだったようです。そのため、創業当時から日傘を長年取り扱ってきました。

傘作りの基本は父の代から全て一緒ですが、現在は製造卸とは別に、個人の方のオーダーメイドやデザイナーさんのご依頼も受けるようになりました。

——小野内商店さまのような形態でやってらっしゃる会社さんは他にもあるのでしょうか?

崇士さん:もしかしたら今はあまりないかもしれませんね。一般的に傘は分業が多いのですが、うちでは生地の裁断から傘を張り終わるまで自分たちだけでできるのが強みです。
かんたんなものであれば京都の職人さんに依頼することもありますが、たとえば近沢レース店さまのような大きなレースを扱った日傘など、製法が特殊なものは自分たちで完結するように作っています。

——これまで培ってきた技術力が強みになっているのですね。

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崇士さん:もちろん代々受け継がれてきた技術力としての強みもあると思います。一方で、中国などの海外へ製造の仕事が流れていったことで自分たちでなんとかしなければ、という危機感もあったのではないでしょうか。
昔は京都にも自分たちがお願いするような職人さんがいらっしゃいましたが、今はほとんどなくなってしまいましたね。

——日傘の製造におけるこだわりや大切にされていることを教えてください。

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崇士さん:傘を開いた時の美しさや生地、レースの伸びによって型が全て違うので、数ミリ単位で一つひとつ丁寧に微調整しています。たとえば、同じ生地でも骨の長さが違えば数ミリ型を広げたり縮めたり。生地の伸びに合わせて型を変えたり。
何百本もの傘が同じ仕上がりになるよう、見本張りの時から微妙な数ミリの差を調整し、縫い合わせや露先付け、傘の張りの工程にも技術が必要なため、完璧な傘を作ってから初めて本製造に移ります。

フォルムの美しさから、生地の張り、広げやすさ、開く時の硬さや音まで一つひとつにこだわって作っていますので、毎日愛用してもらえたら嬉しいですね。

香織さん:ありがたいことに、傘を手に取っていただいたお客様から「こんなに形が綺麗でシワのない傘はどこにも売っていない」と言っていただけることもあります。
細部のこだわりにも気づいていただけると、私たちも嬉しくなりますし、作った甲斐がありますね。

とくにレースの日傘は難しく「他社で製造できなかったから」とうちに依頼していただくことも多いですね。

——製造技術に関してはマニュアルのようなものがあるのでしょうか?

香織さん:父もまだ健在なので、一緒に製造に携わってもらいながら直接目でみて手で触れて技術を吸収しています。その場で「これはもっとこうしよう」といったコミュニケーションを常にやりとりしています。

——当店では日傘の製造を小野内商店さまにご依頼しています。雨傘と日傘の製造の違いなどはあるのでしょうか?

崇士さん:そうですね、雨傘は防水加工などを生地に施すので、生地の伸縮が大体予想がつくのですよね。そのため、そこまで型を替えなくても同じ骨と生地があれば少しの微調整でいいんです。

日傘の場合は、生地が麻であったりそこに レースが加わったり、レースのデザインや目の細かさなどが異なると、一つひとつ型が変わってくるんですね。ちょっとした違いで数ミリ単位の調整が必要になります。
例えば、雨傘の場合は1つの骨に対して3タイプくらいの裁断型から選択できるものが、日傘の場合は生地や骨組に合わせて10タイプくらいの型から選んでさらに調整していきます。

近沢レース店さまの日傘作りは長年やらせていただいているので、この骨にこのレースとこの生地の場合はこの型かな、というのは感覚でやっている部分もあると思います。

——ありがとうございます。とても手間暇をかけて作ってくださっているのですね。傘を1本作り上げるのはどのくらい時間がかかるのでしょうか?

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ミモザレースの縫い作業の様子

香織さん:どうでしょう・・・同時進行で進めているので、1本ずつ作ることはあまりないんですよね。

崇士さん:最初の型を決めるまでが一番時間かかりますね。型さえ決まればあとは作る工程を進めればいいので早いんですけどね。

香織さん:例えば1本だけどうしても今すぐ欲しいって言われて、それだけに全集中するのであれば1〜2時間くらいでしょうか。細かい工程がいくつもあるので、同じ傘を作る場合は1本ずつにかけるよりは複数のものを一気に進めたほうが効率がいいんですよね。

——型を決めるのに時間がかかるとのことでしたが、どのように決めていくのでしょうか?

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裁ち作業の様子。木型に併せて裁ち包丁でカットしていく。

香織さん:三角形のような木型があり、これを作る傘骨と生地に合わせて調整していきます。調整前の型自体はレース用、折りたたみ用、〇〇サイズ用などいろいろあります。お店仕事場にも数十個とありますね。数え切れません(笑)

この型を生地やデザイン、骨組に合わせて調整し、最終的に決まったら今度は生地を型に合わせて裁断していきます。例えば8間(けん)の日傘を作るのであれば、この型に合わせて8枚分の生地を裁ち包丁でカットしていきます。
特にレースの日傘などはデザインをみせることも必要なので、どうやったら綺麗に張りのある日傘になるか、小間(こま)同士のデザインがぴったり合わさるかなど試行錯誤が必要です。

——細部までこだわって作っていらっしゃるということを知り、当店の日傘をたくさんのお客さまに知っていただきたい想いが強くなりました。
続いて、近沢レース店との出会いについてお聞きしたいのですが、おふたりはご存知でしょうか?

崇士さん:近沢レース店さまとは親の代から20年以上のお付き合いなので、私たちが継いだ時にはすでに日傘を取り扱っている状態でした。
ついこの間も、店舗から17年ほど前の傘の修理依頼がありましたね。当時の情報がまだ残っていたので、長いお付き合いであることは間違いないです。

香織さん:余談ですが、その傘の修理も印象に残っています。17年前だと、現在の骨の長さやパーツの位置が異なるんですね。同じような骨組がないと同じように張替えができず、今ある骨とは合わなかったのですが、たまたま1本だけその時の骨組が残っていて無事修理ができました。

——近沢レース店の日傘づくりにおいて大切にされていることを教えてください。

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アールデコレースの露先付け作業の様子

香織さん:傘を作るからには「1年だけ綺麗な傘ではなく、何十年経っても同じフォルムで使っていただきたい」という思いがあります。レースが伸びてくるとフォルムが浅くなってしまうのですが、できるだけ綺麗な形を維持できるよう、デザインの企画段階から一緒にお話しして補強すべき部分などを提案させていただいています。

レースができる前から多くの時間をかけて近沢レース店さまと一緒に作り上げているので、すごくオリジナリティのある日傘が出来上がっていると思います。
毎年異なるレースを用いているので、その年にしか手に入らない日傘を作っているのも難しい反面自分たちも年々技術力が磨かれていくのを感じます。

——以前作られた高級傘は作れる職人さんが限られていて、とくに難しかったとお伺いしました。

香織さん:二重張りの日傘ですね。小野内商店では、二重張りの加工で上と下の生地の裁断を変えて空間を作っているんです。敢えて空間を作ることで、斜めから光が入った時に木影のようなコントラストが出るようにしていて。上下の裁断縫製が同じだと、そういった陰影が出ないんですよ。

崇士さん:影と光が木漏れ日のように交差する作り方をするためには、レースと下の生地の強弱の付け方から生地の円形加工、裁断、縫い合わせまですべて繊細な作業が必要です。レースが非常に繊細なため、裁断時に少しでもずれると仕上がりに影響してしまいます。
ですから、一つひとつ型を合わせながらずれないように8枚に切っていく作業が必要です。恐らく、通常の傘に比べて5倍ほどの時間がかかったと思います。

香織さん:近沢レース店さんの繊細で美しいレースが素晴らしいというのも前提としてあるので失敗できないですよね。柄を合わせて縫い、露先をつけて骨に生地を綴じる作業も緊張しました。

——レース同士の柄を合わせるということも高度な技術が求められそうです。

一生物の日傘づくりへのこだわり。京都で洋傘製造卸を営む「小野内商店」さまへインタビュー

崇士さん:レースが細かくて繊細なので、まず裁断の時点でずれないように手でしっかり押さえながら丁寧に進めていきました。少しでもずれると仕上がりに影響するので、1枚裁断するごとに型を合わせながら確認していましたね。
難しかったですが自分の勉強にもなりましたし良い経験になりました。

——当店の日傘でお気に入りの商品や思い入れのある商品はありますか?

香織さん:最近、2色のレースがすごく華やかでとても綺麗だなと感じています。例えばミモザなら黄色と黄緑、ラベンダーならラベンダー色と緑の組み合わせなど、いろいろな配色があって素敵ですよね。

崇士さん:ほかにも、リリーの緑のように明るい色を合わせておられるので、お客様が差していてもすごく華やかに見えますし、ほかの傘と被らない点も可愛いなと思います。

一生物の日傘づくりへのこだわり。京都で洋傘製造卸を営む「小野内商店」さまへインタビュー
長日傘/ミモザ

——今後、挑戦したいことはありますか?

香織さん:これまで、多くのお客様からご依頼を頂いてさまざまなオーダーメイド品を作らせていただいてきました。お客様がお召しになられたウエディングドレスや成人式の着物、お母様のご遺品の着物を日傘にしたり。

これからも、お客様のさまざまな思いを形に残す傘作りをずっと続けていきたいなと思ってます。

——最後にこの記事を読んでいる人へ一言メッセージをお願いします。

一生物の日傘づくりへのこだわり。京都で洋傘製造卸を営む「小野内商店」さまへインタビュー

崇士さん:1本1本に思いを込めて丁寧に傘を作っていますので、いつまでも長く使っていただければ嬉しいです。とくに日傘はファッションアイテムのひとつでもありますので、気分に合わせて日傘を変えたり、いろいろ楽しんでいただけたらと思います。

香織さん:日傘としての機能性はもちろん、持っていてウキウキするような、気分が明るくなるようなものを選んで頂けたらと思っています。
気に入っているからこそ大切に使っていただけると思いますので、本当に気に入った傘を1つ見つけていただき、ずっと大切にしていただけたらとても嬉しいですね。