福袋の起源と歴史をたどる|福を包むという日本の習わし

新しい年を迎える時期は、街の空気がどこか明るく感じられます。門松やしめ飾りが並び、店頭には福袋の文字が見えるようになると、「今年ももうすぐ始まるのだな」と、気持ちが自然と切り替わる方も多いのではないでしょうか。

福袋は、年末から年始にかけてよく見かける存在ですが、いつ頃からあったものなのか、なぜ日本で定着したのか、と聞かれると、明確に答えられる方はそれほど多くありません。
実は、福袋という文化には数百年を超える背景があり、古代の信仰、江戸の商習慣、百貨店の発展など、さまざまな要素が重なって現在の姿になっています。

今回は、福袋の源流から現代までの流れを辿りながら、「福を包む」という考え方が日本文化の中でどのように育まれてきたのかをご紹介します。

福袋のはじまりは?古い時代の「福を入れる袋」

福袋という言葉自体は近代以降のものですが、「袋に福が宿る」という考え方は、日本の歴史の中で広く見られます。日本では、目に見えない「福」や「ご利益」を、神さまや縁起物を通して受け取るという発想が古くからあり、「福を入れておく場所」として袋が用いられてきたと考えられています。

ここでは、古代から続く信仰や商家の習慣、そして暮らしの中の袋物文化を手がかりに、福袋の原型ともいえる「福を入れる袋」について見ていきます。

恵比寿の袋に込められた「福」の意味

七福神のひとり・恵比寿は、釣り竿と大きな袋を持つ姿で描かれることが多いです。袋の中身は明確に説明されることが少ないものの、「福徳をもたらすもの」「商売繁盛を呼ぶ宝物」といった象徴的な意味が込められています。

この「福が入っている袋」というイメージが庶民の間で広がり、袋そのものが「良いことを運んでくるもの」として定着したと考えられています。
当時の人々にとっては、福袋という名前こそなかったものの、福の入った袋の概念は十分に馴染みのあるものだったのでしょう。

商家に残る「福分け」の習慣

福袋の精神に近いものとして、江戸時代以前の商家にあった「福分け」が挙げられます。
商店の主人が、年始に奉公人へ衣類やお小遣いなどを渡す習慣で、感謝と励ましの意味が込められていました。

品物の内容は店によって異なりますが、「一年間よく働いてくれたことへの感謝」「新しい年もよろしくお願いします」という願いを伝える習慣でした。

福を分ける文化は、後の福袋の精神と深く重なる部分があります。渡されるものは単なる物品ではなく、気持ちのこもったものだったため、人々の心に長く残り、文化としても受け継がれていったのだと感じられます。

巾着や風呂敷に受け継がれる「包む文化」

日本には古くから、包む文化が存在していました。巾着、風呂敷、袱紗など、袋状のものや布で物を包むことは、生活の中で自然な行為でした。物をていねいに扱う姿勢や、相手を思いやる心がそこに込められていたといわれています。

こうした文化を背景に、袋は特別なものを入れる場所として扱われていました。その延長に、福を入れた袋という発想が自然と生まれたと考えられます。

江戸時代の人々が楽しんだ「お正月と縁起もの」

江戸時代に入ると、福袋の前段階ともいえる風習がより明確になっていきます。この時代の江戸の町は人口も増え、商業も発展し、人々の間に年中行事を楽しむという感覚が広がっていきました。
お正月はその中でも特に重要な行事であり、一年のはじまりを良い形で迎えたいという思いから、さまざまな縁起ものや行事が生まれました。

初売りと福引きから生まれた、運試しの楽しさ

江戸では、新年最初の商いである「初売り」がとても大切にされていました。商人にとっては一年の商運を占う日であり、客にとっては、良い買い物をするとその年は縁起が良いという考え方が広まっていたといわれています。

初売りでは、福引きや富くじが行われることも多く、何が当たるか分からないというワクワク感を楽しむ娯楽となっていたようです。こうした運試しの文化は、中身はお楽しみという福袋の仕組みに近いものを感じさせます。

浮世絵に描かれた「福を運ぶ袋」

国立国会図書館の浮世絵コレクションを見ると、福の神が袋を担いだ姿や、縁起物を手にした庶民の様子が数多く描かれています。
袋の存在は縁起の象徴として親しまれていたようで、当時から福が宿るという考えが広まっていたことがうかがえます。

この頃、人々は「袋を手にする=縁起が良い」という意識を持っていたため、現代の福袋の原型となる文化が少しずつ育っていったと考えられます。

参考:国立国会図書館 浮世絵デジタルライブラリー

百貨店から広がった、現代の福袋のかたち

福袋が現在のような形として定着したのは、明治から昭和初期にかけての百貨店文化が始まりとされています。

歴史を辿ると、百貨店の前身である呉服店では、冬の売り出しの際に「反物の裁ち余り」や「見切り品」を袋に詰めて販売していたという記録が残っています。
なかでも、江戸時代の越後屋(現在の三越)が、裁ち落としの布地や小物を「恵比寿袋」として販売していたという説は有名で、この端切れの詰め合わせが福袋のルーツのひとつとされています。

明確な資料は残っていないようですが、反物を扱う呉服店が「福と一緒に袋に入れて売る」という発想を早くから取り入れて、のちの百貨店が引き継いで発展させたと考えられています。

百貨店の初売りと「お楽しみ袋」

三越や松屋などの百貨店が台頭すると、正月の初売りが年中行事として多くの人に親しまれるようになります。豪奢な店内ディスプレイや特別な商品が並び、新年の買い物を楽しむ人々で店内は大いに賑わいました。

この頃、「お楽しみ袋」と呼ばれる商品が誕生します。中身は分からないものの、複数の品物が組み合わされた袋で、買ってみないと分からないけれど、損はしない、という安心感が人気の理由でした。これが、現代の福袋の直接的なルーツのひとつとされています。

戦後の福袋ブーム

戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、福袋はさらに広まりました。テレビCMや新聞広告に福袋が登場し、「家族で初売りに出かける」という風景が全国的に見られるようになります。

この頃の福袋は、新年のイベントとしての意味合いが強く、行列ができる店舗も少なくありませんでした。お得な袋を買うことが、家族の楽しみとして根付いていったといえます。

中身が見える、選べる。現代ならではの福袋の進化

現代の福袋は、これまで以上に多様な形で展開されています。生活スタイルの変化やECサイトの普及により、お客様自身が自分の好みやライフスタイルに合う福袋を選べるようになりました。

現代の福袋の幅広い楽しみ方

ファッション、食品、雑貨、コスメなど、多くの分野で福袋が販売されています。近年は「中身が見える福袋」「好きなパターンから選べる福袋」など、購入前にある程度内容を確認できるタイプも増えてきました。

オンラインで購入するケースも増えており、SNSでは開封動画を投稿する文化も広がっています。他の人の福袋を見る楽しさや、意外な出会いに心が動く瞬間など、楽しみ方は以前よりずっと豊富になりました。

現代人が福袋に求めるもの

現代の福袋には、お得さ以外に求められる要素があります。たとえば、素材の良さ、長く使える品質、生活になじむ実用性など、毎日の暮らしに寄り添うアイテムが好まれる傾向が見られます。

また、贈り物として福袋を購入する方も増えています。開ける楽しみを共有したい、一年のスタートを応援したい、といった気持ちが、福袋を手に取るきっかけになっているのかもしれません。

まとめ

福袋は、長い時間をかけて日本の暮らしに根付いてきた文化です。時代が変わり、購入方法が多様化しても、袋を開ける瞬間の楽しみという核は今も変わっていません。

そこには、古代から続く福を授けるという考え方や、江戸の人々が大切にしてきた縁起を担ぐ楽しみ、百貨店文化が育んだ初売りのにぎわいなど、さまざまな歴史が重なっています。

近沢レース店の福袋も、皆さまが福袋を手に取る時のちょっとした会話のタネとなり、新しい一年を迎える時間がより楽しいものになるきっかけとなれば幸いです。