「元町を紡ぐ人びと」第2回:「横濱元町 霧笛楼」鈴木 令二さんと語る、街を未来へつなぐ力
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- 2025.10.09.
本連載では、横浜・元町に根ざす老舗の方々にお話を伺い、街の魅力や未来を探っています。前回登場いただいた「CHARMY」代表・田中社長が「ぜひおすすめしたい」と紹介してくださったのが、「横濱元町 霧笛楼」です。

クラシカルな空気感と横浜らしいおもてなしで、1981年の開店以来多くの人を魅了してきた横濱元町 霧笛楼。近沢レース店とも深いつながりを持ち、互いのブランドを支え合ってきました。
今回の対談では、横濱元町 霧笛楼を運営する株式会社鈴音 代表取締役・鈴木 令二さんと、前回に引き続き当店営業本部長の近澤 柳が、老舗としての歩みから、元町の魅力や街と共にある老舗の役割を語り合います。
第1章 横濱元町 霧笛楼が大切にしてきた想い
――まずは横濱元町 霧笛楼の歴史やこれまでの歩みについて教えてください。

鈴木さま:霧笛楼がレストランとしてオープンしたのは1981年ですが、会社の歴史はさらに古く、古くは大正時代まで遡ります。もともとは乾物や卵の問屋から始まりました。戦後、米軍に卵を卸すことが大きな転機となり、事業は急速に拡大、茨城には養鶏場や処理場を持っていた時代もありましたが、現在では横浜市内の学校給食、ホテル、飲食店にも卵や鶏肉を届けています。
商売を通じて一貫していたのは、「その時代にとって価値のある食材」を扱うことでした。卵や鶏肉は今でこそ身近ですが、創業当時は高級品。その経験から「上質なものを、できるだけ多くの人に楽しんでもらいたい」という思いが芽生えました。その理念こそが、今の霧笛楼を支える根幹になっています。
近澤:高級なものをみんなに楽しんでもらう、という考え方は、元町の文化そのものにもつながりますね。街もまた、特別感がありながら、どこか親しみやすい。霧笛楼さんの料理には、その理念が表れている気がします。
鈴木さま:そうですね。結果としてフレンチを選んだのも、そういった理念があったからだと思います。
——最近、料理長も世代交代されたと聞きましたが、変化した要素はありますか?

鈴木さま:現在の料理長・高田に代わり、料理の方向性がさらに進化しました。特にワインとのペアリングを意識するようになったのが大きな違いですね。以前は一皿ごとに個性が立っていて、それも魅力でしたが、今は全体を通してひとつの物語を感じられるようになっています。
ただし、伝統を変えるつもりはありません。例えばスペシャリテの「ブラマンジェ」や長年愛されてきた海老料理は、味もスタイルも守り抜いています。そのうえで、全体の質を底上げしていくことを大切にしています。
近澤:霧笛楼さんは独自のスタイルがありますよね。味はもちろん美味しいですし、それ以上に横濱元町 霧笛楼の世界観に没入できる体験を楽しめると感じます。
鈴木さま:ありがとうございます。料理人としての腕もありますが、自身が農家に足を運んだり、生産者と交流したりしていることが、料理の背景に厚みを持たせているのだと思います。
――コースはどのように考えられているのでしょうか。

鈴木さま:基本的に2か月ごとに刷新します。特に野菜や果物といった旬の食材から発想を広げることが多いです。日本人は季節を先取りして楽しむ文化がありますから、初春や初秋といった空気感も料理で表現するようにしています。
近澤:確かに、季節の移ろいを料理で感じられると、特別な体験になりますよね。
鈴木さま:さらに、食材は市場で仕入れるだけでなく、農家や港と直接つながるようにしています。先ほどお話ししたように、料理長が畑へ出向き、農作業を手伝うこともあるんですよ。生産者との関係を大切にすることで、食材そのものにストーリーが宿る。そうした背景も含めて霧笛楼の料理だといえます。
近澤:お皿の向こうに生産者の顔が浮かぶというのは、特別なことですね。霧笛楼さんのお料理が単なる高級フレンチで終わらない理由がよく分かります。
店内の内装もとても素敵ですよね。
鈴木さま:ありがとうございます。霧笛楼は階ごとに異なる空間コンセプトがあります。取材をしていただいている2階の個室は、畳の上にテーブルと椅子を置くというスタイルです。
開港当時の横浜公園にあった「岩亀楼」というゲイシャハウスを参考にしています。開業当初は正座して食べるスタイルでしたが、食べやすさを考慮して高さを調整し、今の形になりました。和と洋が融合した空間でフレンチをいただく。その体験も含めて楽しんでいただきたいですね。
2階個室のみ、お子さまのご利用も可能ですので、ご家族やご親戚の集まりにも利用いただくことが多いです。
第2章 近沢レース店との出会いとつながり
――続いて、お二人の出会いを教えてください。

近澤:最初はSS会(元町の商店会)の活動でした。委員会やイベントの運営でご一緒するうちに、自然と交流が深まりました。印象的だったのは、鈴木さんがハロウィンで本気の仮装をされていたこと。普段は穏やかで落ち着いた方なので、そのギャップに驚いたのを覚えています。
鈴木さま:確かに、あの頃は「街を盛り上げるには自分も全力でやらないと」と思っていましたね。近澤さんも毎年気合が入っていらっしゃるので、私も真剣勝負でした(笑)

近澤:鈴木さんは普段はとても穏やかで控えめな方、という印象があります。ところがハロウィンの仮装や、好きなことを話している時はとても楽しそうだったり、お人柄から熱意とユーモアを感じます。街を背負う人としての強さと、人間的な柔らかさの両方を持っている方ですね。
鈴木さま:近澤さんは、伝統を守りながらも常に新しい挑戦を考えていらっしゃいます。SS会などでお会いすると、常に元町をどう盛り上げていくか、ということに全力の姿勢を感じます。会議などでも中心的になって場をまとめてくださるので、とても信頼できる方です。
――お互いのお店に対してどのような印象を持っていますか?

近澤:霧笛楼さんは誰を連れて行っても間違いない存在です。料理のクオリティはもちろん、空間やサービスまで安心感があります。困ったときに必ずおすすめできるレストランですね。「横濱煉瓦」も横浜のお土産として人気ですし、ブランドとしての信頼感は絶大ですね。
鈴木さま:近沢レース店さんは、伝統を守りながら若い世代にもきちんと届いているのが素晴らしいです。クラシカルなレースを現代のライフスタイルに落とし込み、幅広いお客様に愛されている。その柔軟さと普遍性の両立に、老舗ならではの強さを感じます。
――お店同士のつながりはどのように生まれたのでしょうか。

鈴木さま:霧笛楼では、近沢レース店さんのランチョンマットを使わせていただいています。これがおそらくお仕事としての最初のつながりになったと記憶しています。霧笛楼の料理をただ食べるだけでなく、体験として楽しんでいただくために、テーブルまわりの雰囲気も大切にしたいと考えていたんです。クラシカルでありながら華やかさのあるレースは、まさに理想的でした。
当店は隣にカフェもありまして、そちらでは近沢レース店さんのティッシュカバーや、タオルハンカチを使わせていただいています。
近澤:ありがとうございます。当店でも、母の日のキャンペーンで、霧笛楼さんの食事券を当社のお客様にノベルティとしてお渡ししました。モノではなく体験を贈る取り組みはとても好評で、また利用したいという声も多くいただきました。
こうした取り組みを通して、ただの商品交換ではなく街の体験を共有できる関係になれていると思います。
第3章 元町がつなぐ親子の絆
――元町という街について、どのように感じていますか。

鈴木さま:私が生まれる前は、元町といえば「ハマトラブーム」の中心でした。あの時代は本当に活気があり、街を歩けば若者であふれていたと父からは伺っております。元町のブランドの袋を抱えて行き交う人の姿は、今思えば象徴的な風景でしたね。
時代が進み、その熱気が落ち着いた今、問われているのは、次に誰が元町に来るのかということです。今の課題はやはり30〜40代をいかに取り込むか。ここを入り口にすれば、親世代・子世代へと自然とつながり、3世代が一緒に楽しめる街になると考えています。
近澤:鈴木さんのおっしゃる通りだと思います。実際に私たちのお店でも、30〜40代のお客様が増えています。その方々がお母さまやお子さまを連れてきてくださることで、世代を超えてつながっていく。老舗だからこそできる、世代をまたぐ信頼関係を街全体で意識する必要がありますね。
鈴木:観光客の顔ぶれも多様化していますよね。昔は地元の常連さんが中心でしたが、今は雑誌やSNSで知って訪れる若いカップルもいれば、海外からのお客様も増えました。港町・横浜の玄関口であることを実感しますし、同時にどう受け止めていくかが問われている気がします。
――新しい商業施設も増える中で、元町ならではの強みは何でしょうか。

鈴木さま:横浜にはみなとみらいや赤レンガ倉庫など、新しい施設が次々と生まれています。それ自体はとても良いことですが、元町が同じ土俵で競う必要はないと思うんです。むしろ、ここでしかできない体験をどう提供するかが重要です。
霧笛楼の場合は、クラシカルな空間でフレンチを楽しむこと自体が、横浜らしさの体験になっています。元町全体も、長い歴史と文化を背景に、街ごとコンテンツになることができるはずです。
近澤:元町は、ただの買い物の場ではなく、文化を感じられる街であることが価値なんですよね。だからこそ私たちも、レースを商品として売るだけではなく、暮らしの中にどう取り入れるかを提案する。老舗がそれぞれの形で文化を紡ぎ直すことが、街の未来につながると思っています。
――SS会での活動についてもお聞かせください。

近澤:チャーミングセールは街を代表するイベントのひとつですが、単なる安売りに終わらせない工夫が必要だと感じてきました。お客様にとって元町らしい体験になるように、文化的な演出や街全体での盛り上げを意識しています。
鈴木さま:ハロウィンのときもそうでしたね。私も仮装に本気を出しましたが(笑)、あれは単なる余興ではなく、街が一体となってお客様を楽しませることが目的でした。商売と文化をどう両立させるかを考え続けるのが、SS会の活動の醍醐味だと思います。
——これからの元町に、どのような可能性や期待を感じていますか?

鈴木さま:横浜には新しい施設が次々と誕生しています。そのなかで元町が輝き続けるには、「ここでしか体験できない特別な価値」をどう生み出していくかが重要ではないでしょうか。
例えば、レストランのディナーと近沢レース店さんの限定アイテムを組み合わせた企画など、老舗同士のコラボレーションから新しい体験をつくり出せるはずです。個人店だからこそできる柔軟さを活かし、街全体の魅力に転化していきたいですね。
近澤:そうですよね。個々のお店の力には限界がありますが、街全体で取り組めば大きなうねりになります。元町全体をひとつの舞台として見立てるくらいの意識を持つことが大切ですよね。チャーミングセールやハロウィンのようなイベントも、季節行事の盛り上がりで終わらせずに、街全体で文化を発信する機会として育てていくべきだと考えています。
鈴木さま:老舗としての役割は、ただ伝統を守ることだけではないと感じます。次の世代に街の魅力をどう伝えるか、その橋渡しをしていくことが私たちの責務だと考えています。
親から子へ、子から孫へと続くように、霧笛楼や近沢レース店さんがあることで元町に世代を超えた記憶が積み重なっていく。それがこの街の未来に直結するのだと思います。
近澤:街を訪れる方に、元町に来れば、ここでしか得られない体験があると感じてもらう。その積み重ねが、街全体のブランドを強くしていくのだと思います。私たち老舗が先頭に立ち、若い世代や新しいお店を巻き込みながら、次の元町を育てていきたいですね。
――最後に、元町を訪れる方へメッセージをお願いします。

鈴木さま:霧笛楼では、季節ごとに料理が変わります。訪れるたびに新しい発見をしていただけるはずです。横浜らしい雰囲気の中で、ぜひその時々の旬を味わっていただければ嬉しいです。
近澤:元町は夜が早い街ですが、霧笛楼さんでの夕食をゴールに設定して、その前に買い物や散策を楽しむ。そんな一日を過ごしていただくのがおすすめです。街全体がひとつの舞台となって皆さんを迎えてくれるはずです。
——次回の連載に向け、鈴木社長の元町おすすめスポットを教えてください。
横浜元町テーブルウェア専門店 タカラダ

鈴木さま:私がご紹介したいのは「タカラダ」さんです。当店は大佛次郎の小説「霧笛」の舞台となった元町百段坂のふもとに立地することから、店名を「霧笛楼(むてきろう)」と命名し、開港後に賑わった港崎町遊郭の料亭「岩亀楼(がんきろう)」をイメージしています。
内装や調度品・器に至るまで、異国情緒あふれる古き良き横浜の世界観を再現するべく、こだわりの空間創りを追求しています。その空間を演出するために、「タカラダ」さんの食器を使わせていただいています。

西洋と日本のおもてなしの精神をブレンドした「和魂洋才」をメインコンセプトとしている中で、「タカラダ」さんの食器はマストです。見ているだけで心が豊かになれる素敵なテーブルウェアは、お料理をさらに引き立ててくれる存在です。
最後に

横濱元町 霧笛楼と近沢レース店。分野こそ違えど、ともに元町で長い歴史を重ねてきた老舗同士です。
今回の対談から浮かび上がったのは、ただ伝統を守るだけでなく、街とともに進化し続けようとする姿でした。
横濱元町 霧笛楼が届ける食の体験と、近沢レース店が紡ぐ暮らしの美。その重なりは、世代を超えて愛される元町の文化そのものです。
そして何より、元町には店と店、人と人が支え合いながら、新しい価値を生み出す力があります。横浜元町へ足を運べば、ここでしか出会えない体験がみなさまをお待ちしています。
横濱元町 霧笛楼
- 住所:〒231-0861 神奈川県横浜市中区元町2丁目96
- 営業時間:ランチ 12:00-13:00(L.O.)※15時閉店、ディナー 17:30-19:00(L.O.)※21時30分閉店
- 定休日:月曜・木曜不定休

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