繊細なレース生地を取り扱う「敦賀レース」さまへ、製品へのこだわりをインタビュー

敦賀レースのレース

近沢レース店のアパレルでは、他のどこにもない華やかさと上品さが表現された商品を取り扱ってまいりました。
レースの魅力を存分に引き出す生地は糸の種類やカラー、加工の方法までひとつひとつ工夫やこだわりが込められています。

シーズンに合わせて、当店のレースの生地を織り続けてくださっている敦賀レースさま。
最高級の製品をみなさまにお届けするために、長年培われたレース加工の技術でお力添えいただいています。

今回はレースや服飾に造詣の深い敦賀レースさまの小室 雅司さまに、レースの加工技術や製品へのこだわりをお話しいただきました。

——まずは、敦賀レースさまについて教えてください。

敦賀レースは設立して63年ほどになり、現在は主に服地というアパレルに使用するレースの生地を取り扱っています。

レースは元々インナーのレースや細幅と言われる装飾品としての割合が高かったのですね。
そのため、設立した当時、実は服地ではなく、ショール、パラソル、呉服など現在とは異なる業界をメインに販売していました。

服地が作られるようになった背景としては、呉服が少しずつ廃れていったことやレース単体での販売が難しくなっていったという時代の流れがありましたね。
ただ注文を待っているだけではレースを作り続けることが難しくなり、生地を作ることによって季節に合わせた洋服に使っていただける提案をするようになりました。

——商品の転換をしていく中で、なぜ服地を選ばれたのですか?

敦賀レースのレース

以前呉服などの服飾に携わっていたこともあり、全く新しい業界にチャレンジするよりも知見のある服地を選択しました。
もともとレースというのは完全な素材を作るのではなく、ある生地に加工するという二次加工のような面があります。

例えば、ウールや綿など生地の上に加工して、レースのデザインを施すととても高級感がある、綺麗な別の生地になるのです。

——服地を制作するにあたって、当時は何から始められたのでしょうか?

まずは服地ではさまざまな生地の上に加工することから、生地の勉強を始めました。
ウールやプリント、ジャガードなど生地を取り扱う専門企業の方との付き合いの中で、少しずつ生地の勉強をさせていただきましたね。

また、日本では生地の販売からお客さまの元に届くまで、レース問屋さん、テキスタイル、アパレルと複数の業界を通していく流れがありました。
私たちもその流れで販売を行っていたのですが、リーマンショックが起きたことでこのままでは難しいと思い、全ての生地を、洋服を作っているアパレルへ直接販売することにしました。

——ご自身がレースに携わる中で、特に印象に残っているエピソードはありますか?

敦賀レースのレース

服地を作っていく中で大きかったのはスイスに拠点をもつユニオン会社とライセンス契約をしたことです。
コロナ前までは、年に3、4回はヨーロッパへ行きまして、 服地の勉強をさせていただいていました。

ヨーロッパは日本とは異なり分業制ではなく、図案から機械の調整から企画まで一気通貫してものづくりをしています。
また、日本やアジアは、細かく繊細な蔓柄やサラサ柄が多いですが、ヨーロッパでは幾何柄・花柄でも正面を向いており、その中で動きを表現しているという部分も異なりますね。

柄の違いでいうと、近沢レース店さんのレースは正面向いた花が多いと思います。
蔓柄やサラサ柄は図案や生地で見ると可愛いですが、その繊細さからも高い年齢層に好まれる傾向があるでしょう。 正面を向いた大きなお花は、洋服になった時に若々しさを感じることが特徴です。

——敦賀という地域は元々繊維業が盛んだと伺いました。

敦賀レースの工場

元々レースは紡績業界の大手の企業が取り扱っていました。
100台ほどの機械が使用されていた時期もあったのですが、やはり何千、何万本の糸を使う人手がかかることから、都市部に近く人手があるところで行われていたのが始まりですね。

関東の群馬方面や、 福井、石川など大きな建物を作れる地域に根付いた産業となっています。
反対に東北や北海道など都市部から遠い地域では、距離の遠さで運送の問題があったことから根付かなかったのでしょう。

現在も生地や装飾の販売をしている企業さんは関西・関東周辺にさまざまありますが、古くからからものづくりを続けられている方も多いです。
その地域が服飾におけるものづくりの原点だと思いますね。

——続いて、製品を作る上でのこだわりを教えてください。

営業、商談から図案の下絵、色決め、生地決めなど企画は全て、私1人で行っています。
各アパレルさんの意向で商品を作るためには、スタートラインは分業せずに1人で担当しています。反対に、全て決めた後は各スタッフに任せています。

とにかく「お客様に喜ばれるもの」をという信念でこのスタイルを続けていますね。

レースの販売も会社関係の取引ではありますが、実際はデザイナーの方と直接やり取りすることが多く、個人と個人の信頼関係の上で成り立っているのだと思います。

——敦賀レースさまの加工技術についても教えてください。

敦賀レースの工場

まず服地の制作に使用している機械は大きく、長さが20mで高さが5mあります。
基本的には、家庭用のミシンが1,040台機械に入っている形で、敦賀レースでは敦賀の工場に機械が6台稼働しています。

私たちのこだわりとして、作るものがTシャツ、ブラウス、ボトム、コートと異なる場合、土台となる生地の種類も変わるので、製品によって機械を全て分けています。
理屈上はどの機械も同じものなのですが、ひとつの商品に特化して作ることによって、糸のハリ具合や生地の伸縮性が統一され、良い状態の生地ができるのです。

もうひとつレースには裏糸と表糸がありまして、1番細かい柄では1,040本の糸を用意することから、敦賀レースでは4,000色ほどの糸の在庫を常に保管しています。
所持している糸の中から社内で企画を立てているので、原材料の調整や制作がスムーズに進んでいます。

また、基本的に原材料を選ぶ段階からも、レースに合った糸や生地を作るために機械の調整を行ったり、制作においては工夫をすることを大切にしています。

——レースを加工する上で技術的なこだわりや、大切にされていることはありますか?

敦賀レースのレース

基本的に商品が完成するまでには時間がかかりますので、まずはデザイナーの方やお客さまが満足される商品を作ることが何よりも大切だと考えています。

ヨーロッパのレースは一目見ただけでも大きな存在感がありますので、まずは見た印象にこだわりたいですね。

レースらしい可愛らしさや高級感があることを意識しています。
いろいろな糸を使うことによって、生地の温かみやふっくらとした柔らかさを表現することも努力していますね。

また、働いているスタッフの意見を取り入れて、より良い製品を制作できるように心がけています。

——敦賀レースさまではどのような方が働かれているのでしょうか?

敦賀レースで働くスタッフは若い人たちが多く、若手スタッフの意見は本当に重要だと思っています。
若手スタッフは自分自身の経験値だけではなく、インターネットで自ら調べたりと、持っている情報量が格段に多いのです。その中から意見を出すことが出来るので、若手スタッフからの意見はすごく参考になっています。

何よりもいまの時代、お母さまたちが買う洋服のスタイリストはお嬢さまなんですよ。
洋服だけではなく、髪型やお化粧もお嬢さまがスタイリストとして活躍している印象です。
若手スタッフは、どうしたら自分のお母さんが現代の流行に沿っておしゃれで素敵に見えるか、娘のように考えながら商品の開発をしていると思います。

そのため、社内からもとてもシビアな目線と、厳しい意見をもらいますね(笑)
私も近沢レース店さんへ伺う時は、いつも若手スタッフと一緒に訪問させていただいています。

——敦賀レースさまでは生地の展示会も行われていますが、展示会ではどのようなこだわりがありますか?

敦賀レースの展示会

まず前提として、敦賀レースでは各アパレルさんに生地を提案しているため、提案する物がないと商談ができません。そのため、販売の元となる展示会用の生地のサンプルは年間300枚ほど作成しています。

その上で展示会を行う際のこだわりのひとつは生地やレースの見せ方です。
国内でも大規模な展示会を企画されている方に、10年以上指導を受けています。
プルミエール・ビジョンという海外最大のテキスタイルで使用されていたり、時代の流れに合わせた見せ方をご指導いただいています。

ご指導の元、若手スタッフたちが長く学ばせていただき、そのおかげでいまのような表現で展示会を創り上げています。

敦賀レースの展示会

もうひとつのこだわりは、ものづくりの際に実際に販売を予定しているようなベーシックカラーとは別に、鮮やかな生地や、レースのサンプルを作ってるんです。
プロのデザイナーの方とお話ししながらカラーも厳選し、よりヨーロッパなど服飾のプロに近づけるものを作りたいと思っていますね。

——続いて、当店との関係性についても伺わせてください。

敦賀レースのレース

敦賀レースでは柄を大切にされる会社とお取引したいという思いがあります。
近沢レース店さんは、ずっとご自身の価値観がはっきりわかるものをお選びになられていて、毎回間違いないと思います。

近沢レース店さんは自分たちのお洋服に対して、「素敵でしょう?」といった愛情をもっておられるでしょう。本当に素敵で、上質なものを、納得しながら選ばれているのがよくわかります。

——以前敦賀レースさまに制作をご依頼した製品についても伺いたいです。まずは「スプリンクルレース」についてどのような思いで作成されたのか、教えてください。

敦賀レースのレース

スプリンクルレースでは東欧の麻の生地を使っています。
生地は近沢レース店さんからいただきまして、糸はかなり太い綿の糸を使用し、シルケットという技法で光沢のある生地で作りました。

生地のベース自体は手編み風に見えますが、機械できっちり作っているので仕上がりが美しいのがポイントです。
ハンドメイド的な味わいの中に、華やかで可愛らしい印象を感じられるアイテムだと思います。

また、こちらの製品は敦賀の工場でハンドカットをしています。
ハンドカットは手間がかかる作業ではありますが、その分裏糸と表糸の補修が丁寧にできたりと、大変質の高いお洋服に仕上がります。

——ありがとうございます。続いて、「ハイネレース」についても思い入れを教えてください。

敦賀レースのレース

ハイネレースはケミカルレースとよばれるレースで作られています。
一般的にレースは必ず表糸と裏糸の間に生地がないと織れないので、ケミカルレースというのは間にある生地を溶かして、刺繍糸だけを残したレースです。

そして、ハイネレースの柄は大きく正面を向いているお花の柄ですから、幅広い年代の方に愛されるレースに仕上がったと思います。

レースの裾がひらひらとして見えるのも、ハンドカットで丁寧に作業をして作成された賜物です。

——今シーズン販売予定の「フェスタレース」へのこだわりや思い入れもぜひ教えていただけますでしょうか?

敦賀レースのレース

フェスタレースは特に印象強いレースが使用されているので、まさにコーディネートの主役になるお洋服です。
全体で見ると大変まとまりがあって若々しさを感じるレースです。
どの年代の方が着られても華やかで美しく見せたいと意識して作りました。

こちらはポリエステルの糸を使っていますが、質の良い糸にこだわって、優しい立体感を表現していますね。

——作成した製品を手に取ったお客さまには、どのように感じていただきたいですか?

若手スタッフが着ても、お母さまが着ても、おばあちゃまが着ても、3世代で「可愛いよね」「素敵な服だよね」となることが一番の望みですね。

今、日本でも人気のあるブランドは世代交代ができていると思います。
人気のブランドの洋服をお母さまが着た時に、お嬢さまが「私も着たい」と思ってくださったら、それは世代交代ができているということでしょう。

いまのお若い方々は、お母さまやおばあちゃま世代の洋服を着こなすだけの力があります。
なので、近沢レース店さんが洋服のブランドとしても、どの世代からも愛される個性を発揮してみなさまに喜んでいただけたら思います。

——今後、近沢レース店とどのような取り組みをされたいですか?

敦賀レースのレース

今と同様にこの関係を長く続けていただけたら、嬉しいですね。
私たちは近沢レース店さんに対して、「一生懸命ものづくりします」という気持ちです。

私たちは基本的には生地のご注文をいただいたとしても、その生地がどう生まれ変わったのかを見ることは出来ないのですよ。

お客さまに喜んでいただけているのか、見えないからこそ、続けていただけるということは近沢レース店さんにも、その先の顧客様にもご満足いただいているのかなという安心感があります。
ぜひこれからもより良い関係を続けていきたいというのが、私たち一同の気持ちです。

——最後にこの記事を読んでいる人へ一言メッセージをお願いします。

近沢レース店さんのアパレル製品は何シーズンもご着用いただける、よい糸でつくられていると思いますので、ぜひ長く大切に着ていただけたらと思います。
これからも多くのみなさまに愛されるお洋服に、一緒に携わっていけたら嬉しく思っています。

敦賀レースのレース